前回の授業では、安全性の指標について学びました。今回は、効率性の指標である資本回転率について見ていきましょう。
前回までの授業では、上掲の等式の右辺のうちの左側の売上高利益率について学びました。今回の授業では、右側の資本回転率をはじめとする各種回転率について見ていきます。
売上高利益率の分母の「売上高」と資本回転率の分子の「売上高」とを相殺すると、等式の左辺の資本回転率となります。前回の授業で少し触れたように、資本利益率は、企業の収益性を判断する基本的な指標です。後の授業で詳しく説明します。
回転率を具体的にイメージしてもらうために、資本回転率から離れて、客の回転率についてフレンチ・レストランと立ち食いそば屋の例で説明しましょう。
上掲のスライド上の1行目の「客1人当たり平均利益」は、第1回の授業の演習問題Ⅰに出てきました。2行目の「店舗1時間当たりの客数」に客の回転率が関わってきます。フレンチ・レストランの方は、4人掛けのテーブルが2卓で、1時間に客は満席としても1回転なため、8名と仮定します。
一方、立ち食いそば屋の方は、1度に20人が利用できるカウンターで、1時間に6回転して、120名の客をさばくことができるとします。「客1人当たり平均利益」に「店舗1時間当たりの客数」を掛け合わせて「店舗1時間当たりのもうけ」を求めると、フレンチ・レストランが20,000円であるのに対して、立ち食いそば屋は、24,000円となります。このように最終的なもうけは、売上高利益率だけできまるわけではなく、回転率も重要な要素なのです。
(1)総資本(産)回転率
総資本(産)回転率は、以下の算式で求められます。
売上高
総資本(産)回転率(回) = ──────
総資本(産)
自己資本・他人資本と総資本の関係を示したものが、図表1です。
貸借対照表貸方の自己資本と他人資本の合計である総資本は、貸借対照表借方の総資産に等しいので、総資本回転率と言っても、総資産回転率と言っても同じことを意味します。
総資本回転率について、次の演習問題を解いてみて下さい。
解答時間1分で考えてみてください。解答は、文末です。
両社の総資本は、以下の通りです。
両社の売上高は、以下の通りです。
上掲の数値で、両社の総資産回転率を求めると、以下のようになります。
製造業の場合のモノとカネの対流としてのビジネスを図示したのが、図表2です。製造業の場合、調達した原材料等を加工して製品とするため、流通業の場合より時間がかかります。そのため、回転率は低くなります。
一方、流通業の場合のモノとカネの対流としてのビジネスを図示したのが、図表3です。仕入れた商品については、製造業のように加工しないので、回転率は高くなります。
両社の営業利益は、以下の通りです。
両社の売上高営業利益率を計算すると、以下のようになります。
製造業のトヨタの場合、加工によって流通業の場合より大きな価値が付加されるので、売上高利益率も高くなります。
もう一度、売上高利益率と資本回転率、および資本利益率の関係を見てみましょう。
左辺の資本利益率は、右辺の売上高利益率と総資本回転率とに分解することができます。製造業は、加工によって大きな価値を付加することにより売上高利益率を高めるタイプのビジネスです。
一方、流通業は、低い売上高利益率を総資本回転率を高めて補うタイプのビジネスです。「薄利多売」と呼ばれます。
(2)総資本営業利益率
元手(資本) に対するもうけ(利益)の比率である資本利益率のうち、分母が「総資本」で、分子が「営業利益」の資本利益率が、総資本営業利益率です。つまり、総資本営業利益率は、以下の算式で求められます。
営業利益
総資本営業利益率=──────────────── × 100
総資本(資産の部合計)
両社の総資本営業利益率は、以下の通りです。
【演習問題解答】
演習問題Ⅰ解答:Aがセブン&アイで、Bがトヨタ文末です。