決算報道では見えない姿 自宅でできる決算分析

決算報道では見えない姿を見るために自分で会社の決算分析ができるようになるブログです。

自宅で学ぶ決算分析 第3回 もうかっていても潰れたら大変(安全性分析)

 前回は、収益性分析の指標である売上高利益率について学びました。今回は、貸借対照表と安全性の指標である当座比率流動比率、固定比率、固定長期適合率について見ていきましょう。これらの比率は、貸借対照表の数値から求められます。そこで、まず、貸借対照表について見ていきましょう。

 

(1)「資金」から見た貸借対照表

 貸借対照表を「資金」という観点から見ると、貸方(右側)は、資金がどのような源泉から調達されているか(資金源)を示しています。貸方には、負債と純資産があります。負債は、返済を必要とします。一方、純資産は、出資された資金と過去の利益の蓄積されたものからなります。したがって、返済を前提としたものではありません。

 借方(左側)は、資金がどのような資産に投下されているか(資金の運用)を示しています。借方には資産があります。貸借対照表は、資金源と資金の運用、すなわち、企業の財政状態を示します。

 資産と負債については,流動・固定という区分があり,貸借対照表にとって重要な区分です。


(2)流動比率

 次に、流動比率について見ていきましょう。当座資産棚卸資産とを合わせて流動資産といいます。

 流動比率は、以下の算式で求められます。 

         流動資産                 

流動比率 = ───────   ×100 

            流動負債 

 

 流動比率について、次の演習問題を解いてみて下さい。

 解答時間1分で考えてみてください。解答は、文末です。

 

 流動比率については、分子が「現金+比較的早く現金になる資産」である流動資産で、分母が「比較的早く返済期限が来る借金」である流動負債なので、一般的には100%以上が望ましいとされます。

 しかし、業種によってどれくらいが望ましいかは、異なるので、業界の平均値と比較する必要があります。また、業種によっては、100%未満でも安全性に問題がない場合もあります。具体的には、スーパーマーケット業界です。したがって、関西スーパーマーケットは、100%未満ですが、安全性について問題はありません。


(3)固定比率

 固定比率とは、固定資産に投下された資金がどのくらい長期的な資金で賄われているかをあらわします。固定資産は、取得してからそれが現金化するまで比較的長期間を要します。したがって、その取得のための資金は、資産の現金化の後に返済できればそれが望ましいことになります。さらに、返済を前提としない自己資本で賄われていれば理想です。


 純資産とは、資産から負債を差し引いた額です。純資産のうち、株主資本と評価・換算差額等の合計額は、自己資本と呼ばれます。自己資本は、企業の元手と過去の利益の蓄積分で、返済を前提としません。

純資産の部(連結貸借対照表)の内訳 

株主資本

その他の包括利益累計額

新株予約権

非支配株主持分

 

 固定比率は、以下の算式で求められます。

                            固定資産

固定比率 (%) = ────────  ×100 

           自己資本

 

 固定比率について、次の演習問題を解いてみて下さい。

 

 解答時間1分で考えてみてください。解答は、文末です。

 

 固定比率は、100%を下回っていることが望ましいとされます。100%を超えている場合は、固定資産が自己資本のみでは賄われていないことを意味します。次に、固定長期適合率について見ていきましょう。

 

(4)固定長期適合率

 返済までの期限が比較的長期の固定負債を加えた数字で、固定資産が賄われているかどうかを見るのが固定長期適合率です。

 固定長期適合率は、以下の算式で求められます。 

               固定資産

 固定長期適合率 (%) = ──────────────  ×100 

                   自己資本固定負債

 

 なお、固定負債とは、仕入債務以外の債務のうち,決算日の翌日から返済までの期間が1年を超える債務です。


 固定長期適合率について、次の演習問題を解いてみて下さい。

 解答時間1分で考えてみてください。解答は、文末です。

 

 

【演習問題解答】

演習問題Ⅰ解答:Aがしまむらで、Bが関西スーパーマーケットです。

演習問題Ⅲ解答:Aが関西スーパーマーケットで、Bがしまむらです。

演習問題Ⅳ解答:Aが関西スーパーマーケットで、Bがしまむらです。

 通常は、固定資産が固定負債自己資本によって賄われていなければ、固定資産が現金化する前に固定負債の返済が巡ってくる可能性があり、安全性に問題があると判断されます。しかして、スーパーマーケット業界については、一般的に固定長期適合率が100%を多少超えていても問題ありません。

 

自宅で学ぶ決算分析 第2回 100円売っていくらがもうけ?(売上高利益率)

 企業は利益稼得を重要な目的として行動しています。したがって,利益稼得能力,つまり収益性が,投資はもちろん,その他の融資や取引開始といった行動にとっても大事です。

 売上高利益率は,もっとも分かりやすい収益性を判断するための経営指標です。例えば,売上高利益率が10%であれば,その企業が100円のものを売って,そのうちの10円がもうけだということです。売上高利益率は,以下の算式で求められます。

 

           利益

 売上高利益率 = ──────── × 100

                 売上高

 

 売上高利益率を図で表すと図表1のようになります。

 売上高利益率を求める算式の分母は常に「売上高」ですが,分子に入る「利益」によっていくつかの売上高利益率が計算され,それぞれその値の意味合いに違いがあります。以下では,下掲の4つの利益,そしてそれを分子とする4種の売上高利益率について見ていきましょう。

 (1)売上総利益

 売上総利益は,売上高から売上原価のみを控除した金額です。売上総利益は,業界における上位に位置する企業ほど利幅が大きくなります。なぜなら,販売市場で有利なポジションにあれば,販売価格を比較的高く設定することができ,また売上が多ければ,調達市場で大量に安価で調達することができるからです。 

 売上総利益を図で表すと図表2のようになります。

 


売上総利益

 

 売上総利益を分子とする売上高利益率が売上総利益率です。売上総利益率は同業他社比較に利用されます。なぜなら,売上総利益率は,売上規模の影響を受けることなく,上述のように市場におけるポジションの強弱を示すからです。 また,年次比較においては,市場における商品競争力の変化や当該会社のポジションの変動を示します。売上総利益率は,以下の算式で求められます。

          売上総利益            

売上総利益率 = ────────  ×100 

                     売上高 

 売上総利益率について,次の演習問題を解いてみて下さい。

 解答時間1分で考えてみてください。

 解答は,文末にあります。

 

(2) 営業利益

 営業利益は,仕入・生産活動および販売・経営管理活動からなる「本業」による利益を示します。ビジネスによっては,広告などの販売費に多く振り向けることが要求されます。その場合,営業利益はその分小さくなります。

 営業利益を図で表すと図表3のようになります。

 


売上高営業利益率

 

 営業利益を分子とする売上高利益率が売上高営業利益率です。営業利益が本業によるもうけであるため,売上高営業利益率は,異業種間の比較も可能です。売上高営業利益率は,以下の算式で求められます。

             営業利益            

売上高営業利益率 = ──────  ×100 

                              売上高 

 

 また,売上高販売費及び一般管理費率は,以下の算式で求められます。

                                                   販売費及び一般管理費  

売上高販売費及び一般管理費率 = ─────────────────  ×100 

                                                          売上高 

 

 売上高営業利益率について,次の演習問題を解いてみて下さい。

*両社の数値は、公表されている「有価証券報告書」に拠るものです。

 解答時間1分で考えてみてください。

 解答は,文末にあります。

 

(3)経常利益

 営業利益に財務活動の結果、すなわち、営業外収益を加算し、営業外費用を控除した経常的活動による儲けが、経常利益です。本業と並んで、財務活動も企業にとって不可欠な経常的活動であり、経常利益は、本業と財務活動の結果を示します。一般に「ケイツネ」と呼ばれ、重視される利益の1つです。

 本業を営むにあたって,ビジネスの継続に必要な運転資金の一時的不足を埋めるといった財務活動は,本業ではないものの,重要な日常的活動です。支払期限が巡ってくる負債を返済するための資金を準備することを資金繰りといいます。

 また、次の支払まで運用可能な余剰資金については、遊ばせておくことなく、銀行に預けたり株式を買ったりして収益を生むよう運用することが不可欠です。このような資金繰りと余剰資金の運用の結果が、営業外収益・営業外費用です。

 

売上高経常利益率

 売上高経常利益率は、営業外収益・営業外費用含めたその会社の経常的な収益力を示します。会社の業績の将来予測にも利用されるとともに、業績評価の最も一般的な指標です。売上高経常利益率は、以下の算式で求められます。

            経常利益            

売上高経常利益率 = ────────  ×100 

                       売上高 

 

 営業外収益計上の実例を見てみましょう。住友倉庫は、株式を沢山保有しているので、多額の配当金が入ってきます。

 本業からのもうけである営業利益に加えて、上掲のように、22億3千8百万円の受取配当金(営業外収益)があるので、経常利益は、135億5千2百万円です。

 

(4)当期純利益

 経常利益に特別利益を加算し、特別損失を控除したものが、税引前当期純利益です。税引前当期純利益から、法人税等を控除し、法人税等調整額を加減して当期純利益が表示されます。当期純利益は、損益計算書の最終行に示されるボトムラインです。 すなわち、損益計算書上、最終的な利益です。 

 特別利益・特別損失の内容は、臨時利益・臨時損失です。例えば,固定資産が帳簿価額(未償却残高)以上で売れれば,その差額が固定資産売却益(特別利益),それ以下でしか売れなければ固定資産売却損(特別損失)となります。

 

売上高当期純利益率

 利益の一部は、株主に分け前として配当されます。売上高当期純利益率は、株主に対する配当の財源がどの程度の効率で獲得されたかを示します。売上高当期純利益率は、以下の算式で求められます。

             当期純利益            

売上高当期純利益率 = ────────  ×100 

                         売上高 

 

(5)各種売上高利益率の特徴

 これまで見てきた各種売上高利益率の特徴をまとめると、以下のようになります。

売上総利益率~同業他社との比較を売上規模の影響を受けることなく行える。マーケットにおける、その会社の強さ弱さを示します。

売上高営業利益率~その会社の財務構造の影響を受けることなく計算した利益率です。本業からの利益を使うため異業種間比較も可能です。

売上高経常利益率~財務コストも含めたその会社の経常的な収益力を示す。会社の業績の将来予測にも利用されるとともに、業績評価の最も一般的な指標です。

売上高当期純利益率~最終的な株主に対する配当財源がどの程度の効率で獲得されたかを示します。

 

【演習問題解答】

演習問題Ⅰ解答

 

Aがカルビーで,Bが湖池屋です。

 カルビーは,製菓メーカーの中で売上高がトップです。したがって,売上総利益率について,湖池屋よりも良い数値となっています。


演習問題Ⅱ解答

 Aが資生堂,Bがキッコーマンです。資生堂の方が、販売費及び一般管理費にお金をかけていることが分かります。

自宅で学ぶ決算分析 第1回 まずは会社の大きさを知ろう(経営規模)

はじめに

 企業は,私たちの日常生活にとって重要な身近な存在です。朝起きて,夜寝るまで,私たちの生活は,企業が生み出したもの,企業で売られているもので成り立っているといっても過言ではありません。つまり,私たちは消費者として企業に密接にかかわっています。企業について,消費者の観点だけでなく,いわば企業の観点から企業について学ぶのが「自宅で学ぶ決算分析」シリーズの目的です。

 このブログは,財務諸表の数値を使って自分で会社の経営分析ができるよう,経営指標の比率や数字が何を示すかを学ぶことを目的としています。その結果,ファイナンス用語も分かるようになります。分かりやすく書かれていますが,決して内容が初歩的なものに留まるわけではありません。本書で身につけた知識だけで充分,自分で企業を分析し,診断することができます。

 財務諸表を使った経営分析,すなわち財務諸表分析によって,企業の様々な状態が明らかになります。財務諸表分析は,ファンダメンタル分析とも呼ばれます。財務諸表分析によって明らかになるのは,以下の4つの側面です。

  • 収益性
  • 効率性
  • 安全性
  • 成長性

 

 ①収益性とは,要するにもうかっているかどうかです。②効率性とは,モノを有効利用しているかどうか,③安全性は倒産しそうにないかどうか,そして④成長性は,大きくなっているかどうかです。

 これらの側面の重要性は,投資の観点からはもちろんですが,例えば,将来自分が就職する会社をイメージしてみるとわかりやすいでしょう。

 まず,収益性,やはりもうかっている会社の方が,やりがいがあるし給料も沢山もらえるでしょう。効率性は,収益性を高めるための重要な要素です。そして,いくらもうかっていても,倒産してしまっては元も子もありません。

 さらに,成長している会社なら,自分が店長や重役になる可能性が高くなります。入社した時,10店舗の会社だと店長のポストは10しかありません。でも,その会社が成長して100店舗になれば,店長のポストが10倍になります。

 このブログでは,各側面について順番に見ていきますが、今回は,まず、企業規模と収益性分析の指標である売上高利益率について見ていきましょう。

 

第1回 まずは会社の大きさを知ろう(経営規模)

(1)財務諸表と地図

 これから山に登ろうとしているとしましょう。頂上に至る道がどのようについているかを知るためには,地図に頼ることになります。登山という行動について,それに必要な情報を地図によって得ることができます。地図(写体)は,縮尺や等高線といった様々なル-ルによって地形(本体)を写し取ったものです。企業の活動(本体)と財務諸表(写体)は,ちょうどこの地形と地図の関係にたとえることができます。登山者にあたるのは,経営者,株主及び債権者といった企業のステークホルダーです。

 登山者は,山という本体についての情報を写体としての地図から得て,登山という行動に役立てます。同様に,経営者,株主および債権者等のステークホルダーは,企業会計基準によって写し取られた企業の活動という本体についての情報を,写体としての財務諸表から得て,投資,融資,取引といった行動に役立てるのです。


(2)経営規模

 まず,個人の場合,ある人がお金持ちかどうかをはかる基準として,財産と所得とが挙げられます。財産は,家屋敷,自動車等,その個人が所有するストックの富です。他方,所得とは,その個人が定期的に得るフロ-としての富ということになります。

 企業の大きさをはかる指標についても同じです。ストックとしての規模を表す基本的な指標は資産の部合計であり,貸借対照表の借方(左側)の末尾に表示されています。

 それでは,実際の企業の資産の部合計(資産規模)で企業規模の比較をしてみましょう。お菓子メーカーのカルビー湖池屋の数値です。スナック菓子を食べる時,それを作っている会社の規模など全く関心がないと思います。消費者としては,おいしいかどうか,値段が手頃かどうかということが重要で,それを作っている企業は重要ではありません。しかし,企業自体に関心を向けると,消費者の視点では見えなかった側面が現れてきます。

 表の2行目にある「決算年月」については,両社の決算は,カルビーが3月決算,湖池屋が6月決算です。次の表のとおり,カルビーは,湖池屋の8.89倍の資産規模です。



 一方,フロ-としての規模を示す指標は売上高であり,損益計算書の第1行に表示されています。年商という言葉を耳にすることがありますが,これは「年間売上高」を指します。「年間売上高」は,商売の大きさを示す目安です。次の表のとおり,カルビーは,湖池屋の6.63倍の売上高規模です。